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突然死にもつながる冠攣縮性狭心症

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日本人に多いとされる冠攣縮性狭心症。心筋梗塞と並び、虚血性心疾患の中では突然死の原因ともなる恐ろしい病気です。日中よりもむしろ夜間や早朝などのリラックスしている時間帯、または就寝中に突如として発作が発症します。
ここでは、冠攣縮性狭心症の症状やメカニズム、発症の危険因子、発作後の診断法や治療法、予後などについて詳しく解説します。一度冠攣縮性狭心症を患った患者は、たとえ治療が終わっても再発による突然死のリスクがあるため、生涯にわたり何らかの対策を継続しなければなりません。

冠攣縮性狭心症とは

冠攣縮性狭心症とは、心臓の冠動脈が痙攣を起こして収縮する病気。収縮した先へは血液が送られにくくなり、最悪の場合、そのまま死に至ります。一般に狭心症は、冠動脈に生じた動脈硬化による血流阻害が原因とされますが、同じ冠動脈における血液阻害でも直接的な原因が異なることから、別々の病気として扱われています。

冠攣縮性狭心症は虚血性心疾患の一種

冠攣縮性狭心症は、虚血性心疾患の一種に分類されます。虚血性心疾患とは、冠動脈の一部で血液が流れにくくなる、または血流が阻害される病気の総称。具体的には狭心症と心筋梗塞の2つに分かれます。

狭心症は、症状の現れ方と原因の違いにより、動脈硬化を原因とした狭心症と、冠動脈の痙攣を原因とした狭心症に分かれますが、両者とも心筋梗塞に発展する恐れがあります。

突然死の原因にもなる

冠攣縮性狭心症が生じた際、重度の不整脈を併発することがありますが、この場合、処置が遅れると突然死にいたることもあります。冠攣縮性狭心症の突然死の率は全体の16%。決して低い数字ではありません。
なお、虚血性心疾患において突然死のリスクがあるのは、基本的に心筋梗塞と冠攣縮性狭心症のみ。心筋梗塞の発作時における30~40%の死亡率よりは低くなるものの、冠攣縮狭心症も同じく突然死を引き起こす心臓疾患であることは覚えておいてください。

疫学的な傾向

動脈硬化による狭心症も含め、狭心症患者全体の40~60%においては、大なり小なり冠攣縮の症状があると言われています。すなわち、狭心症患者全体の40~60%は突然死のリスクと隣り合わせで生きている、ということになります。
また日本人における冠攣縮性狭心症の発症比率は、欧米人におけるそれに比べて非常に高いことで知られています。これには日本人の遺伝的体質が影響しているとも考えられています。

冠攣縮性狭心症の自覚症状

冠攣縮性狭心症の発作時の自覚症状は、基本的には胸の痛みです。動脈硬化を原因とする一般的な狭心症に比べて、その痛みは強いと言われています。焼けるような痛み、と表現する患者もいます。また胸部痛の他にも、人により様々な自覚症状があることが分かっています。
なお、発作の症状が軽度の場合には、自覚症状がほとんどありません。そのため、見方によっては早期発見が難しい病気であると言うこともできるでしょう。

 

よく見られる自覚症状のパターン

胸部における激しい痛みの他に、胸が締め付けられるような感覚や、胸を圧迫されたような感覚を覚える患者が多いとされます。また、痛みを感じる部分を厳密に言うと「胸」ではなく、「胸を中心とした広範囲」になることが一般的です。みぞおち、後頭部、肩、首、歯、背中などに痛みが放散する例も見られます。なお動脈硬化を原因とする一般的な狭心症の痛みは5分程度で収まるのに対し、冠攣縮性狭心症は数分~30分程度継続する点は大きな特徴です。
痛みと併せて、吐き気、嘔吐、冷や汗、排便、失神などが見られる場合もあります。

安静時に発作が起こりやすい

一般的な狭心症は、日中、体を動かしているときに発症することが普通です。それに対して冠攣縮性狭心症は、逆に夜間や早朝などの安静時に多く発症する傾向があります。前者を労作時狭心症、後者を安静時狭心症と呼んで区別する場合もあります。

【アンケート調査】動悸や胸の痛みを感じたのはどんな時でしたか?

「胸の動悸や痛みで不安になったことがある」という、30~40代の男女112人を対象にアンケートを実施しました。 「動悸や胸の痛みを感じたのはどんな時でしたか?」という質問に対し、得られた回答は以下の通り。

  • 運動をしている時:6.2%
  • 安静にしている時:28.6%
  • 就寝中:9.8%
  • 寝起き:2.7%
  • その他:8.0%
  • 毎回違う:39.3%
  • 記憶にない:5.4%

最も多かったのは「毎回違う」という回答でしたが、次いで多かったのは「安静にしている時」の28.6%。心臓の疾患というと、激しく動いたり階段を上ったりした時に起きるというイメージがありますが、「運動をしている時」はわずかの6.2%。圧倒的に安静時の発作の方が多いという結果でした。

アンケート:動悸や胸の痛みを感じたのはどんな時でしたか?

冠攣縮性狭心症のメカニズム

冠攣縮性狭心症は、心臓の表面を走る冠動脈が攣縮(痙攣を起こして収縮すること)を起こし、一時的に血流が悪化する症状のこと。冠動脈が攣縮を起こすメカニズムには、血管内皮機能の不全、および血管平滑筋の過剰な収縮が関与しています。

血管内皮細胞の機能不全

血管は、外側から順に外膜・中膜・内膜の三層で構成されていますが、これらのうち内膜に存在する細胞組織を血管内皮細胞と言います。動脈は、中膜に一酸化窒素(NO)を吸収することによって拡張するメカニズムがありますが、この一酸化窒素を放出するのが血管内皮細胞。逆に言うと、血管内皮細胞に機能不全があると一酸化窒素の放出が不足し、動脈は収縮してしまいます。

血管平滑筋の過剰収縮

平滑筋とは、血管を始め呼吸器や生殖器、眼球内などに広く存在する不随意筋(意志とは無関係に動く筋肉)。平滑筋の働きは、当該部位における収縮や弛緩の調節ですが、何らかの理由によって冠動脈の血管平滑筋が過剰に収縮した場合、冠攣縮が起こります。

冠攣縮性狭心症の体験談

夜中に息苦しくなることがある

夜中、急に息苦しくなったことが数回あり、今年に入り、仕事中に胸の真ん中あたりがキューッと締めつけられ、重くなるような痛みが頻回になりました。
昨年末からヘルベッサーを夕食後に1回服用し、胸痛があった場合にニトロールを服用するよう、医師から言われていました。先日午前10時頃、急に胸痛が起こり、二トロールを1錠服用しましたが、痛みがぶり返し、救急車でかかりつけの医院に運ばれました。その後、検査入院し、主治医からは心臓カテーテル検査で冠攣縮を検査することも選択肢としてあげていただきましたが、ヘルベッサーが1日2回になってから、胸痛が治まり、入院期間中の検査結果にも変化がなかったことで、薬の効果を見ることにしました。

冠攣縮性狭心症と診断され、薬を飲んでいる

カテーテル検査の結果、冠攣縮性狭心症と診断されました。朝方、寝ているときの痛みだけなので運動してもよいといわれ、普通の生活をしています。血管を広げる薬を処方していただきましたが、1回飲んだだけでものすごい頭痛があり、医師からも薬を飲まずにいましょうといわれました。このままの生活をしていて、また痛みが出たらと思うと少し不安です。

冠攣縮性狭心症の治療に不安がある

3年ほど前、胸痛で意識が遠くなり、救急車で病院に運ばれ、冠攣縮性狭心症と診断されました。医師より禁煙指導と降圧薬、ニトロールのほか発作時にニトロペンの処方を受けました。ニトロペンを1ヶ月間で80錠も使うほど頻繁に冠攣縮が発生したため、医師に相談したところ、薬等は換えずにフランドルテープを使用するよう指導されました。
結果として冠攣縮が発生する頻度は極端に少なくなりましたが、フランドルテープを毎日使用しています。この状態ですと薬に慣れが生じていつかは効かなくなるのではと心配になります。

冠攣縮性狭心症と妊娠の関係

先月、胸痛で検査入院したところ、冠攣縮性狭心症だと診断され、薬(ヘルベッサー)の服用で様子を見ることにしました。それから、最近では胸痛はあまりなくなり、先生から調子がいいようなので薬を止めてみようかと言われ、今はやめています。
今月、妊娠が発覚しました。
胸痛がなかったので安心していたのですが、今日、入院前よりは軽い胸痛と、一日中胸に違和感がありました。もし、妊娠中に冠攣縮性狭心症が再発したら、出産はできないのでしょうか?

症状が悪化したため薬を変更

先月から悪化していた冠攣縮性狭心症の発作ですがいきなり悪化したわけではなく、病気になった当初はコニール2mgが就寝前に1錠だったのが、今年の前半に調子が悪く朝晩1錠ずつになりました。それでしばらく落ち着いていたのですが、9月になるとまた発作が増えて一日何度も発作が起きることもあったので、ニコランジルを朝と晩1錠ずつとイソソルビドテープが追加になりました。
それで落ち着くかと思いきや全然おさまらず、お酒を飲まない日にまで発作が起きたりしたので、コニールからニフェジピンCR錠10mg朝晩1錠に変更になりました。それでも発作が出るときはニフェジピンを増やして飲むように、と言われていたので夜に2錠にする日もありました。

朝方に胸の苦しさを感じ、救急車で搬送

朝目が覚めてベッドから起き上がろうとすると、突然、胸が圧迫されたような苦しさを覚えて身動きできなくなったのだ。何度目かの胸痛に襲われた時、あまりの苦しさから救急車を呼んで、病院に搬送された。6~7年前にも熱中症や十二指腸潰瘍で、何回か救急車のお世話になった事はあったのだが、今回のような事ははじめてだった。
検査の結果、冠攣縮性狭心症だという事で、発作が出た時に飲むようにとニトロとフランドルテープと、コレステロール値がかなり高めだという事でアトルバスタチンを処方された。

寝るときの胸の不快感がずっと続いていた

横になると胸騒ぎのような不快感が増強してきて眠れない。吐き気などではなかったのですが、念のためトイレで用をたしてみるが、良くならない。夜勤明けの疲労のせいなのか、本当に体調が悪いのかこの時点では判断がつかない。なんとか寝ようと布団にくるまるとさらに不快感がひどくなる。
そうこうするうちに呼吸苦を感じ、受診は難しくこれ以上悪くなるなら救急を呼ぶしかないなと判断。狭心症や心筋梗塞ならすぐに呼ばないとと思い携帯を握る。指先や足先、携帯のカメラで顔を見てチアノーゼが出ていないか確認する。大丈夫だと思った瞬間、ドーンと発作が来る。痛みというより、呼吸苦がメインでしょうか。体の中でざわざわと臓器が震えるような違和感。

夜勤中に症状を感じます

昨年6月に胸痛を感じ、受診したところ、ホルター心電図にて明け方のSTの上昇と洞停止があるといわれました。8月に心臓カテーテル検査にて左冠動脈に冠れん縮が誘発されました。左の冠動脈は生まれつき細いとのことです。心臓電気生理学検査では洞機能はやや低下している程度でした。
現在、薬を飲みながら仕事を続け、2交代の夜勤もしています。薬はどんどん増えてしまいました(アイトロール、シグマート、コニール、フランドルテープ、発作時にニトロペン)。夜勤は仮眠がなかなか取れないので朝方苦しくなります。この頃は日中の仕事でもふらふらすることが多くなり、そんな時脈を取ってみるとかなり乱れています。気にしないようにしようと思うのですが気分も悪くなり、少し横になると落ち着きます。

体験を見てみると、やはり明け方や就寝中に発作が起きた、という意見が多くみられますね。また、処方薬を飲んだが発作が起きてしまった、処方薬の副作用が辛い、といった声が挙がっていることから、この疾患に対する薬での対処には限界がありそうです。病院での治療だけで悩みが解決しない場合、発作を予防するためのセルフケアも検討してみると良いでしょう。

冠攣縮性狭心症の危険因子

狭心症のひとつである「冠攣縮性狭心症」を誘発する危険因子には、大きく分けて環境要因と遺伝的要因の2つがあります。環境要因の代表的な因子は、喫煙、飲酒、脂質異常、ストレスの4つ。
これまでの研究によると、遺伝的要因があったとしても、環境要因がなければ発作が起こることは少ないと言われています。逆に、遺伝的要因を持つ人が環境要因も持っていた場合、発作のリスクは急激に高まります。つまり、発作の予防・改善のためには環境要因を排除することが最も大切、ということです。
ここでは、冠攣縮性狭心症の危険因子について、それぞれ詳しく解説していきます。

環境要因の種類

  • 喫煙

    喫煙が冠攣縮性狭心症の発作の最大の誘因となることは、医学会では定説です。科学的エビデンスも多く存在しています。煙草の煙に含まれる酸化物が体内に活性酸素を大量発生させ、細胞の炎症反応が導かれて冠攣縮が起こる、とされています。現在、すべての医療機関において、患者に対する禁煙指導は必須となっています。

  • 飲酒

    飲酒、特に深酒をした翌朝に発作を起こす人が多く見られます。理由については、いくつかの可能性が指摘されていますが、中でも有力な説がマグネシウム欠乏。マグネシウムが体内で欠乏すると心臓発作を起こすリスクが高いことは以前から知られていますが、アルコールにはマグネシウムを体外に排出する作用があるため発作を誘発しているのではないか、とされています。

  • 脂質異常

    冠攣縮性狭心症患者の血液を検査すると、善玉コレステロールの減少など、脂質に何らかの異常が見られることが多いとされます。脂質の異常を原因とし、体内には発作の遠因となる活性酸素が増大するのではと指摘されています。

  • ストレス

    人はストレスを感じると、交感神経・副交感神経といった自律神経のバランスが乱れてしまいます。乱れた自律神経からの刺激は、冠攣縮性狭心症の発作を誘発すると言われています。

遺伝的要因

冠攣縮性狭心症の発生率については、明らかな地域差、民族差が存在します。一般的に、アジア人(日本人を含む)における虚血性心疾患の発生頻度は欧米人に比べて低いと言われていますが、冠攣縮性狭心症に関しては、日本人の発生頻度は欧米人よりも高いというデータがあり、以前から遺伝因子の関与が示唆されていました。
冠攣縮性狭心症の誘発因子は、上記の「喫煙」をはじめとする環境要因が多いとされていますが、そこに遺伝的な背景が加わることによって、発生頻度の地域差・民族差が生じているものと考えられます。
近年の研究では疾病に関する遺伝子が次々と発見されるようになってきていますが、遺伝子と疾病との関連性を解析することで、ひとりひとりの遺伝情報に基づく医療によって一次予防が可能になると期待されています。

熊本大学大学院生命科学研究部循環器病態学による研究

以前から指摘されてきた冠攣縮性狭心症における遺伝的要因については、近年の遺伝子解析技術の進歩によって明らかになりつつあります。その一例として、熊本大学大学院生命科学研究部循環器病態学による、冠攣縮性狭心症における遺伝的要因に関する研究をご紹介します。
この研究グループは、以前にも冠攣縮の発生メカニズムに血管内機能障害が関連しているということ、さらに血管内では一酸化窒素(nitric oxide:NO)を合成する血管内皮型一酸化窒素合成酸素(eNOS、NOS3)遺伝子が変化することが冠攣縮性狭心症の発症に関わっている、と報告しています。その結果に基づき「eNOS遺伝子」に的を絞って遺伝子多型の検索を行ったのが以下の内容です。

当施設では,難治性冠攣縮例における遺伝的要因の関与を強く示唆する所見として,内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子変異(-786T/C多型)を有する冠攣縮例の予後への影響を検討している.この検討結果では,本遺伝子多型は心臓死をエンドポイントとする予後には影響を及ぼさなかったが,冠攣縮の再発による再入院が高頻度に認められたことが明らかとなっており,当遺伝子多型が難治性冠攣縮の一要因であることが示唆された.

引用元:海北 幸一,小川 久雄「冠攣縮性狭心症の診断と治療のガイドライン」(pdf)

この報告の中で、eNOS遺伝子多型と冠攣縮の関連が示唆されています。ただし、eNOS遺伝子多型を含め、冠攣縮に関与する可能性がある遺伝的素因を持っていても発症しない人も、素因を持っていなくても発症する人もおり、冠攣縮性狭心症を発症するメカニズムはまだ完全にはわかっていないのが現状です。
ちなみに、eNOS遺伝子多型は冠攣縮性狭心症のほかにも、心筋梗塞や高血圧症、妊娠中毒症、脳血管障害といった疾患にも関与するという報告もあり、さまざまな疾患に関わっているものと考えられています。

国立札幌病院循環器科と北海道大学医学部による研究

続いて、国立札幌病院循環器科と北海道大学医学部による研究をご紹介します。
冠攣縮および冠攣縮性狭心症には、冠動脈硬化を基にした冠動脈平滑筋の過収縮が強く関与しているということがわかっていますが、その具体的なメカニズムについてはわかっていませんでした。そこで国立札幌病院循環器科と北海道大学医学部では、4件(2家系)の症例をもとに、冠攣縮性狭心症の同胞発症や、家族内発症例の遺伝因子の検討を行いました。ちなみに「同胞発症」とは、同じ父母から生まれた兄弟姉妹が同じ病気を発症することを指しています。
本研究で取り上げている症例の概要は下記の通り。症例①・②・③の3症例は冠攣縮性狭心症、症例④は器質的冠閉塞に伴う切迫心筋梗塞を発症した患者です。

  • 54歳の男性

    主な症状は安静時の骨後部圧迫感(5分以内に消失)。6人兄弟だが、姉に右冠動脈器質狭窄に起因する心筋梗塞、妹に冠攣縮性狭心症がある。本人の危険因子としては喫煙と低HDLコレステロール血症が見られる。

  • 50歳の女性(症例①の妹)

    主な症状は歩行時に起こる歩行時胸部不快感。危険因子としてはコレステロール血症が見られる(家族歴は症例①を参照)。

  • 64歳の男性

    主な症状は夜間の胸部圧迫感と安静時に起こる胸痛。兄弟は8人で、兄に器質冠閉塞に伴う切迫心筋梗塞と冠攣縮がある。本人の危険因子としては喫煙と低HDLコレステロール血症が見られる。

  • 70歳の男性(症例③の兄)

    主な症状は胸痛。夜間から胸痛が起こり医療機関を受診。一度処置を受け胸痛が消失したものの、再度胸痛が起こったため2度目の受診。結果不安定狭心症の疑いで入院している。危険因子としては喫煙、高血圧、低HDLコレステロール血症が見られた(家族歴は症例③を参照)。

以上の4症例について、研究グループではHuman Leukocyte Antigen (HLA=ヒト白血球抗原)に注目して検討しました。ちなみに、HLAとは「白血球の血液型」と呼ばれるもの。体内のほぼ全ての細胞と体液に分布しているものですが、その種類は約16,000種類とも言われており、さまざまな役割を持っていることがわかっています。
さらに、このHLAの型を調べることによって、特定の疾患を発症しやすい傾向を調べることができます。これまで特定のHLA型と疾患の関連性について研究が行われてきた結果、自己免疫疾患を中心に、数多くの疾患に関与していることがわかりました。
この研究では、このようなHLAの特性を生かすことにより、冠攣縮性狭心症と遺伝子の間にある関連性について調べています。

冠攣縮性狭心症と遺伝因子の関係を肯定する証拠はこれまで乏しい.しかし冠攣縮性狭心症の同胞発生例でHLAtypingを検討した報告は過去になく,本報告にて2家系の同胞4人のHLAtypingのうち4つの抗原が一致したことから,冠攣縮あるいは冠攣縮性狭心症を示す患者の一部には,冠動脈平滑筋の過収縮に遺伝因子の関与する可能性が示唆される.なお症例4のように,器質的冠閉塞による心筋梗塞例で,梗塞後狭心症が見られなくとも,冠攣縮誘発試験にて非梗塞責任血管に冠攣縮を認めたことから,日常狭心痛のない人でも,家系的に冠動脈が易攣縮性で,冠攣縮誘発試験に陽性となる場合が考えられる.今後,冠攣縮性狭心症の家族発症例と冠攣縮誘発試験に陰性な例を集積し,そのHLAtypingの比較から,冠動脈平滑筋の過収縮と遺伝因子との関係が解明されるものと思われる.

引用元:堀本和志、竹中孝、五十嵐慶一、藤原正文、会沢佳昭、脇坂明美「2家系の同胞に認めた冠攣縮および冠攣縮性狭心症 冠攣縮における遺伝因子の関与」(pdf)

冠攣縮性狭心症は、動脈の壁に存在している平滑筋が関与していることがわかっています。この平滑筋が収縮を起こすことによって血の通り道が狭くなり、狭心症を発症してしまうのです。上記の研究では、研究対象となった4つの症例におけるHLAtypingのうち、4つの抗原が一致したという結果から、冠動脈平滑筋の過収縮に遺伝因子の関与する可能性が示唆されると結論づけています。

冠攣縮性狭心症の診断方法

一般に心臓病の検査は心電図の動きを確認することで行なわれますが、冠攣縮性狭心症の場合、まさに発作が起こっている瞬間を除き、心電図は正常な波形を描きます。そのため心電図のみによる検査は極めて困難で、他の様々な検査法と組み合わせることで疾病の有無や程度を診断します。
検査法を大きく分けると、侵襲的検査と非侵襲的検査の2種類があります。

侵襲的検査の種類

侵襲的検査とは、体に何らかの危害を加えて検査をする方法。
冠攣縮性狭心症の検査においては、具体的にはカテーテルを使った検査を侵襲的検査と呼んでいます。
太ももや手首からカテーテルを挿入し、そのまま心臓まで到達させて、様々な検査を行ないます。カテーテルの先端から薬剤を放出して造影画像を確認したり、または、カテーテルの先端に設置されたカメラを通じて冠動脈の内部を目視により確認したり、などの検査です。

非侵襲的検査の種類

非侵襲的検査とは、体に直接的な危害を加えずに検査をする方法。その代表が心電図です。ただし、すでに説明した通り、冠攣縮性狭心症の患者の心電図は発作時を除いて正常波形のため、一般的な心電図では検査が困難です。そこで患者には、ホルター心電図と呼ばれる携帯型の心電図を24時間装着してもらい、事後的に発作の状況を確認する方法を採ります。
他にも、医師の目の前で運動などの負荷作業をしてもらい、一時的に発作を創出したうえで心電図を確認する、という方法も行なわれています。

冠攣縮性狭心症の治療

検査を通じて冠攣縮性狭心症と診断された場合、速やかに治療へと入ります。原則として治療は、手術ではなく投薬によって行われます。あわせて再発を防ぐために、様々な生活習慣の改善指導が行われます。生活習慣の改善については、医師が直接何らかの手助けをできるものではないので、患者本人および家族の努力によって進めていかなければなりません。

薬物療法

冠動脈の痙攣を抑える薬、冠動脈を拡張する薬、全身の末梢血管を拡張する薬などの中から、患者の状態に合わせて最適な薬を処方します。
冠攣縮性狭心症の治療薬として第一選択される薬は、カルシウム拮抗薬です。
他、ニトログリセリンに代表される硝酸薬も多く用いられます。難治性の冠攣縮性狭心症患者に対しては、補助的にニコランジルが投与される場合もあります。

生活習慣の改善

冠攣縮性狭心症は冠動脈の痙攣が直接の原因ですが、患者の多くには、いわゆる生活習慣病の併発が見られます。高血圧、高血糖、脂質異常症(高脂血症)などです。これら生活習慣病を改善するためには、適正な体重を維持することが急務。実際に冠攣縮狭心症を患う患者の多くが肥満、または肥満ぎみと言われているため、食事面や運動面などの生活習慣を是正する必要があります。
他にも、発作を誘発しやすい喫煙、飲酒、ストレスについては医師からの厳重な指導が入ることになります。

冠攣縮性狭心症の予後

冠攣縮性狭心症は、一般に予後良好な病気とされています。「良好」という言葉は多分に主観的な概念になるので、一部の医師らの個人的印象によっては「良好」ということになるのかも知れません。
主観を排除した医学的な臨床データのみに依拠した場合、冠攣縮性狭心症の再発による死亡率は5~15%とされています。初めての発作における16%という死亡率と合わせると、トータルでの死亡率は決して低い数字ではないと考えるべきでしょう。

激しい運動は再発の要因となる

冠攣縮性狭心症の予後においては、医師から適正な体重の維持を指導されます。肥満は発作の危険因子だからです。食事療法や運動療法を通じ、生涯、適正体重を維持していくことになります。
アメリカのある調査によると、糖尿病の患者さんでは、歩行習慣のある患者は歩行習慣のない患者さんより、死亡率が低いことが報告されています。さらに、一日少なくとも2時間歩く人は、心疾患による死亡率は34%低下。(Edward W. Gregg et al : Relationship of Walking to Mortality Among US Adults with Diabetes, Archives of Internal Medicine, Vol.163, 2003, 1440-1447 より)
ただし運動においては、原則として有酸素運動のみにとどめます。有酸素運動とはウォーキングやサイクリングなど、普段通りの呼吸をしながら行なえる運動のことです。呼吸を乱しながら行なう無酸素運動(短距離走、激しい筋トレなど)は、発作を誘発する危険因子となるので避けましょう。運動に限らず、体を激しく動かすことは禁忌です。

仕事の内容も見直す

比較的激しく体を動かす仕事をしている場合は、医師の診断書をもとに、職場内での異動などを上司に相談してみましょう。また1日4時間以上の残業がある職場や、慢性的なストレスを避けられない職場の場合も、発作の発症率が通常の2倍程度になると言われています。いずれの場合も、職場の責任者との話し合いが必要となるでしょう。
「長時間労働者の健康ガイド」より

突然死を避けるために

冠攣縮性狭心症の詳細について確認しました。大事なことは、まず発作の誘因を排除すること。特に禁煙、節酒、適正体重の維持は非常に重要なポイントです。冠攣縮性狭心症と診断された方は、必ず生活習慣を見直すようにしてください。また、自己判断による薬物の中止によって患者が死亡した例もあるので、薬の服用についても医師の指導に忠実にしたがってください。

また、まだ病院で診てもらったことはないものの、早朝に胸に異変を感じた経験がある人は冠攣縮狭心症の疑いがあります。明日の朝、突然の発作で亡くなる可能性もあるので、今すぐに循環器科を受診し検査を受けてください。何らかの対策・行動をとらない限り、突然死のリスクは常に隣り合わせにあると考えましょう。

冠攣縮性狭心症の直接原因:
血管の異常収縮の対策とは?

冠攣縮性狭心症の病因となる血管の異常収縮。胸焼け、安静にしているときにも突然襲ってくる動悸などの症状は、血管が異常に収縮しているサインかもしれません。しばらくしたら落ち着きますが、放置してしまうと血管が完全に詰まってしまい、急性の心筋梗塞も引き起こす恐れもあります。

現在の血管攣縮の治療法は、生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。 治療薬に関して、今まで血管拡張作用の硝酸薬や、血管平滑筋細胞内のCa2+流入を抑制するCa拮抗薬などが有効とされてきました。しかし、これらの薬物には耐性やリバウンド効果が問題視されています。さらに、正常な血管収縮も抑制してしまい、血圧が低下するなどのさまざまな副作用もあります。

こうした従来の血管攣縮の治療薬に対し、山口大学の小林誠教授のチームは、血管攣縮のメカニズムを解明し、異常な収縮のみ抑制する成分を抽出できました。その成分の原料は生魚に多く含まれるEPAですが、特殊な方法で抽出することで、EPAの吸収力を高め、血管攣縮の治療に特化した成分へと仕上げました。他の一般的なEPAと区別して「小林式EPA」と命名されました。血管の異常収縮を抑制できる唯一の成分として高く評価されています。

注目の成分「小林式EPA」開発の経緯やメカニズム、また、唯一「小林式EPA」が配合されている商品の説明は以下のサイトで確認してください。

参照元:冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)

冠攣縮性狭心症に関する研究成果

冠攣縮性狭心症と微小血管抵抗指数上昇の関連を東北大学の研究グループが報告

2019年11月7日、東北大学病院の下川宏明教授が率いる循環器内科の研究グループは、冠攣縮性狭心症と微小血管抵抗指数上昇との間に相関関係があることを解明。両者に共通する因子として、Rhoキナーゼの活性化が関与していることを発表しました。

冠動脈に生じる異常にはいくつかありますが、それらの中でも典型的な異常が、「冠攣縮性狭心症」と「微小冠動脈過収縮・拡張反応障害」の2つ。東北大学病院の下川教授らのグループは、これら2つの障害に共通した機序を追求するという世界発の研究を試みました。

微小血管抵抗指数高値を合併の合併で長期的予後が悪化

冠攣縮性狭心症と微小血管抵抗指数高値(※)を合併している患者グループを始め、冠動脈に異常を持つ患者を4グループに分類。観察の結果、冠攣縮性狭心症と微小血管抵抗指数高値を合併している患者グループは、他のグループよりも、経過観察中の不安定狭心症発症や心臓死が多く見られることが分かりました。

すなわち、両障害の合併が長期的予後の悪化と関連していることが示唆されました。

※微小血管抵抗指数高値…微小冠動脈拡張反応障害が生じたとき、微小血管抵抗指数が高値を示します。

冠攣縮性狭心症と冠動脈拡張障害の発症機序にはRhoキナーゼ活性化が共通して関与

血管収縮の重要な因子Rhoキナーゼを選択的に阻害する薬「ファスジル」を冠動脈内に投与すると、冠攣縮性狭心症と微小血管抵抗指数高値を合併した患者グループにおいて、微小血管抵抗指数の改善が確認されました。

すなわち、冠攣縮性狭心症と冠動脈拡張障害の発症機序には、Rhoキナーゼ活性化が共通して関与していることが示唆されました。

この研究により、冠動脈機能異常を持つ患者の長期的予後を判別できる可能性が出てきました。 また、Rhoキナーゼ活性化の関与が示唆されたことで、Rhoキナーゼ阻害薬を始めとした新たな治療戦略の開発が進む可能性が出てきました。

東北大学病院の下川宏明教授が率いる循環器内科学分野の研究グループは、上で紹介した研究のほかにも、冠攣縮性狭心症の研究をいくつか発表しています。

2019年3月7日、同グループは冠攣縮性狭心症に関連する国際共同研究の成果を発表。日本人に比べ、欧米人において冠攣縮発作による心臓死や不安定狭心症入院が多いこと、および、下川教授が開発した冠攣縮狭心症の予後予測指標「JCSAリスクスコア」が、日本人患者だけではなく欧米人患者においても有効であることを示しました。同グループによる今後の研究報告にも要注目です。

参照元:東北大学病院「冠動脈全長にわたる機能異常の存在:狭心症の新たな病態を解明 冠攣縮性狭心症と微小冠動脈障害が合併すると長期治療経過が悪化」[pdf]

 

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